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第5回.特許取得の方法
(1) いつ特許出願をするか
我が国は先願主義(39条)を採用していますので、同じ発明についてだれかが先に特許出願をしていた場合、後から特許出願をした者は特許を取ることができません。従って、発明が生まれた場合、直ちに特許出願をすべきです。
仮に、発明が完全に完成していないと思われる場合であっても、とりあえず特許出願をし、特許出願後1年以内に国内優先権制度を利用してデータ等を補充するのが良いと思います。
また、学会発表の予定がある場合は、学会発表より前に特許出願をすべきです。新規性喪失の例外の規定(30条)の適用を受けても、先願の例外にはならないからです。
(2) だれが発明者になるか
発明者とは、当該発明の創作行為に現実に加担した者だけを指し、単なる補助者、助言者、資金の提供者あるいは単に命令を下した者は、発明者とはなりません。
大学内の力関係、企業内の力関係、企業間の力関係等を必要以上に考慮し、発明者でない者を発明者に加える場合が見受けられますが、このような特許出願は特許を受ける権利の帰属に関する瑕疵を内在させるおそれがあり、好ましくありません。
以下の者は、発明者ではないとされています。
①部下の研究者に対して一般的管理をした者、たとえば、具体的着想を示さず単に通常のテーマを与えた者又は発明の過程において単に一般的な助言・指導を与えた者(単なる管理者)
②研究者の指示に従い、単にデータをまとめた者又は実験を行った者(単なる補助者)
③発明者に資金を提供したり、設備利用の便宜を与えることにより、発明の完成を援助した者又は委託した者(単なる後援者・委託者)
(3) だれが特許出願をするか
発明者本人か、発明者から特許を受ける権利を譲り受けた者(自然人、法人)が特許出願をします。通常は、発明者から特許を受ける権利を譲り受けた企業や大学が特許出願をします。
発明者が複数人で、各発明者が異なる企業又は大学に属している場合、特許出願は共同で行うことになります。
特許出願を共同で行う場合は費用の負担が少なくなるというメリットがありますが、後の特許管理がかなり面倒になるというデメリットがあります。
従って、共同出願人はできる限り少なくしておいた方が良いと思われます。
(4) 何について特許出願をするか
普通は何について特許出願をするか迷うことはないのですが、大学においては新たな発見に基づいて発明が生まれる場合が多く、産業上の利用分野の可能性が広すぎ、発明を絞りきれない場合が見受けられます。
例えば、新規微生物が発見され、この微生物が種々の特性を有していて、これらの特性から産業上の利用の可能性が多岐にわたって考えられる場合、多くの発明を提案することができます。
このような場合は、可能性のある全ての発明について裏付け実験をするわけにはいかないし、また可能性のある発明の全てについて特許出願をしたとすると、膨大な費用がかかってしまいます。
従って、このような場合は事業化の可能性の高い発明にとりあえず限定して特許出願をするしかないと思われます。
(5) どうやって
① 先行文献の調査
新規性や進歩性の認められない発明を特許出願しても特許にならず、費用も手間も無駄になりますので、出願に先立って特許公報等の先行文献を調べる必要が有ります。特許公報等は特許庁電子図書館(IPDL)や民間のデータベース(パトリス、NRI等)で調査することができます。
なお、当然のことですが、本当は先行文献の調査は研究に着手する前、あるいは研究中に行うべきです。時間と手間をかけて研究した結果がすでに先行文献に出ていたとすれば、その時間と手間が全て無駄になってしまうからです。
② 特許取得手続
特許を出願してから権利を取得するまでは、以下の手続を行うのが一般的です。
特許出願→出願審査請求→拒絶理由通知→意見書・補正書提出→特許査定→特許料納付→特許権発生
これらの手続は出願人が自ら行ってもよいし、特許の専門家である弁理士に依頼してもよい。
(a) 自分で手続きをする場合
特許出願の書類は自分でも作成可能であり、そのようにした場合は弁理士に依頼した場合にかかるような費用はかかりませんが、慣れない作業になるのでかなりの労力と時間を必要とします。
しかも、特許出願の書類を自分で作成する場合、特許出願の体裁を満足する程度の書類を作成することはできますが、当該発明の本質部分を防御できるような書類の作成はかなり難しく、また、審査官から拒絶理由通知が来た場合に、その反論として提出する意見書や補正書の作成は更に難しいと思います。
更に、特許出願の書類を自分で作成した場合、拒絶理由通知書を読んでから気が付いた補正の根拠が出願当初の明細書に書かれていない可能性もかなり大きいと思います。
従って、経験のために特許出願をする場合は良いのですが、大切な発明については、特許の専門家である弁理士、好ましくはその発明が属する技術分野を専門とし、ある程度の経験年数を積んだ弁理士に依頼するのが賢明と思います。
(b) 弁理士に依頼する場合
弁理士に特許出願を依頼した場合は、当該発明の本質部分を防御できるような書類の作製が期待できます。ただし、弁理士に特許出願を依頼する場合の費用は1件当たり約35万円~45万円程度と高額です。
特許出願を弁理士に依頼する場合は、口頭説明だけで済ますことも可能です。ただし、弁理士はスーパーマンではありません。ちょっと説明すれば発明者が考えていること全てを察知してくれるわけではありません。口頭説明であっても、弁理士に対して発明の全てを説明し尽くす必要があります。
なお、弁理士に良い明細書を作成して貰うためには、形式は問いませんから、面倒でも、発明の内容をできるだけ詳しく書いた説明書や資料を提供した方が良いと思います。
また、その発明の説明だけでなく、発明の背景である従来の技術についての説明書や資料も提供した方が良いと思います。
(6) 学会発表で30条適用を受ける場合
学会発表で30条適用を受けるためには、厳しい要件を満足させたり、面倒な手続をする必要があります。そして、適用を受けたとしても新規性喪失の例外でしかなく、先願の例外にはなりません。
また、学会発表により新規性を喪失した場合、欧州ではその発明について特許が受けられなくなります。欧州で新規性喪失の例外が認められるのは下記の場合だけです。
①出願人またはその法定承継人に対する明らかな不正行為
②公のまたは公に認められた国際博覧会における出願人またはその法定承継人による発明の開示
従って、できれば第30条適用を受けることなく特許出願をした方がよいと思います。
もし、学会発表の日時が迫っている場合は、学会発表用に作った論文をとりあえず特許出願の形式にアレンジして特許出願をし、1年以内に国内優先権制度を利用してきちんとした内容の特許出願にし直した方が良いと思います。
(7) 特許で行くか実用新案で行くか
物の発明の場合、登録要件としては特許も実用新案もほとんど違いはありませんので、特許と実用新案のいずれでも行けますが、方法の発明の場合は特許で行くしかありません。どちらでも行ける場合は、商品寿命の長いものは特許(存続期間:20年)が適当であり、流行性のものは実用新案(存続期間:10年)で行くのが適当です。
一般に、特許出願して権利になるまでにかなりの年月がかかりますが、実用新案で出願すると3~4ヶ月程度で登録され、権利が発生します。従って、今年の夏が勝負、今年の冬が勝負といった緊急の商品の場合、実用新案で行くのが良いと思います。
(8) 外国特許出願について
その発明に関する事業が外国でも行われる可能性がある場合は、外国へ特許出願することも検討する必要があります。ただし、外国出願はかなりの費用(出願時だけで80~100万円程度/1カ国)がかかりますので、発明によって得られる利益の大きさを検討してから出願の要否を決定する必要があります。
外国へ特許出願するには、国際出願(PCT)の制度を利用する方法と、パリ条約に基づく制度を利用する方法の2通りの方法があります。前者は1つの出願でとりあえず多数の国に特許出願をしたことになる制度であり、後者は個別に特定の国に特許出願をする制度です。
両者は一長一短があるので、状況により判断する必要があります。
例えば、優先権の期限が迫っていて、翻訳文を作製する時間が無いときは、日本語で特許出願ができる国際出願が便利です。
しかも、国際出願をした場合は、国際出願後、速やかに国際調査報告書が出るので、この国際調査報告書を見て指定国(特許を取りたい国)での権利化の可能性を判断することができます。そして、判断の結果、指定国での権利化を断念した場合は、翻訳費用や指定国での費用を無駄にしなくて済みます。
一方、国際調査はかなり厳格に行われているので、国際調査でネガティブな結果が出ると、指定国で特許になり難いと思われます。このような可能性がある場合はパリ条約に基づく制度を利用してその国に直接特許出願をした方が良いかもしれません。
なお、外国出願にはJST(科学技術振興機構)が補助金を出しているので、大学の場合、この補助金を申請して外国出願をするのが一般的です。
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