知財判断

出願をする前提で
考えている社内の背景

会社の中では、出願しない判断よりも、とりあえず出願する判断の方が選ばれやすい構造があります。 しかし、知財は件数を増やすこと自体が目的ではありません。 その出願が本当に事業に合っているか、将来の維持費を含めて合理的か、さらに公開によって何を失うかまで含めて考える必要があります。

このページでお伝えしたいこと

出願しないという判断は、「何もしない」ことではありません。 無駄な出費を防ぎ、会社の資源を守る、積極的な経営判断です。 現代ではそれに加えて、先端技術を公開すること自体のリスクも、以前より重く考える必要があります。


1.「出願しない」という判断の意味

出願しないという判断は、単に何もしていないということではありません。 現在の出願費用だけでなく、将来にわたる維持費用や社内負担を含めて、無駄な出費を防いだという積極的な行動です。

それは、会社の資源を守る判断であり、十分に評価されるべき経営判断です。 発明があれば必ず出願する、という発想ではなく、その技術をどのように事業に結びつけるかという視点で判断することが重要です。

しかし現実には、会社の中では「とりあえず出願」が起きやすい傾向があります。

2.なぜ「とりあえず出願」が起き易いのか

特許出願には費用がかかります。さらに、出願後も、審査請求費用、登録料、維持年金などの費用が続きます。 そのため、本来であれば、費用をかけてまで出願する必要があるかを慎重に考える必要があります。

ところが、出願という判断は、出願書類や特許公報という形で成果が残ります。 そのため、知財担当者にとっては、仕事として評価されやすい側面があります。

これに対し、出願しないという判断は、形に残りにくく、仕事として評価されにくい側面があります。 しかも、弁理士の側も、敢えて自分への依頼を減らしてまで「出願しなくてよい」とは言いにくいことがあります。

また、出願しないという判断は、絶対的な正解として示せるものではありません。 将来になって「あのとき出願しておけばよかったのではないか」と言われる可能性もゼロではありません。 知財担当者や弁理士としては、出願しなかった場合のリスクまで背負いたくない、という心理が働きやすくなります。

その結果として、「とりあえず出願する」判断に偏りやすくなるのです。

さらに、登録後も、その特許が実際に事業に生きているかどうかの検証は簡単ではありません。 そのため、惰性的に維持年金を支払い続ける判断も起きやすくなります。

この構造は、会社にとって利益にならない支出を固定化させる原因になります。

3.公開リスクを重く考える時代

特許制度は、本来、公開の代償として一定期間の独占権を得る仕組みです。 そのため、特許出願をすると、技術内容は最終的に公報として公開されます。

かつては、技術を公開しても、日本企業の生産力、品質管理力、現場力などによって優位を維持できる場面が多くありました。 しかし、現代では、日本の産業は多くの分野で中進国企業から強く追い上げられています。

この状況では、先端技術を公開すること自体のリスクを、以前よりも重く考える必要があります。 技術内容を公開した結果、模倣や迂回を受けやすくなり、自社が十分に回収できないまま、他社の開発や追随を助けてしまうこともあり得ます。

もちろん、特許出願が有効な場合は多くあります。 しかし、出願すれば安心という時代ではありません。 公開による利益と不利益の比較、そして、その技術を本当に権利として守り切れるのかという現実的な検討が必要です。

とくに、製造条件、材料配合、工程管理、品質安定化のノウハウなどは、公開してしまうことで競争優位を失う場合があります。 そのような技術は、特許ではなく、ノウハウとして管理した方が合理的なこともあります。

したがって、現代の知財判断では、単に「権利が取れるか」ではなく、 公開してもよい技術か、公開すべきでない技術かを先に見極めることが重要です。

4.解決の方向性 ― 判断の有形化・システム化

問題は、出願するかどうかそれ自体ではありません。 判断が評価される仕組みがあるかどうかです。

「出願しない」という判断を、単なる口頭判断で終わらせず、資料として残す。 その判断の理由、検討過程、事業との関係、公開した場合のリスク、ノウハウ管理の必要性などを、有形化して残す。 そうすることで、出願しない判断もまた、仕事として評価できる対象になります。

さらに、それを会社の中でシステム化しておけば、担当者個人の責任感や心理的負担だけに依存せず、 会社として一貫した判断がしやすくなります。

これは同時に、将来、他社特許との関係で問題が生じた場合に備えた、先使用権の証拠整備にもつながります。 出願しない判断を、単なる消極策ではなく、資料化された経営判断として扱うことが重要です。

当事務所の考え方

当事務所では、責任回避のための「とりあえず出願」は勧めません。 まず、その出願が事業に必要かどうか、公開の不利益はないか、維持し続ける意味があるかを整理します。 日本の産業が中進国から追い上げられている現在、先端技術を公開することの不利益は、以前より重要になっていると考えています。 そのため、出願しない場合でも、その判断理由を整理し、必要に応じて先使用権やノウハウ管理への備えにつなげます。

出願するか迷っている段階から、ご相談いただけます。

出願する場合だけでなく、出願しない判断や維持見直しの段階でもご相談いただけます。